コラム

透析関連情報

血圧が下がったら足挙げる?

血液透析中に頻度の高い合併症のひとつに血圧の低下が挙げられます。

透析中に血圧が下がった経験をした方も多くいらっしゃるのではないのでしょうか。

そんな時はどのように対応していますか。

患者様だけではなくスタッフもこのように対応することが多いかと思われます。

 

でもちょっと待ってください。本当にそれでいいのでしょうか。

 

血圧が低下するとどうなる?

血圧低下により脳への血流が低下し、脳へ必要な血液が送られないと不可逆的な障害を起こす危険性があります。

 

下肢を挙上すると血圧が上がる理由

下肢を挙上すると、重力によって下肢の静脈血が心臓に戻ります。そのため心拍出量(心臓から送り出される血液の量)が増加することで血圧があがり、脳への血流を増やすことが可能です。

 

しかし下肢挙上時の心拍出量は、仰向けの状態と比較して20秒後には増大するものの7分後には仰向けの状態と同様になることが報告されています。

 

つまり下肢の挙上はあくまで応急処置であり、原因に対する対応が本来は必要なのです。

 

下肢挙上に注意が必要な場合

さて、血圧低下時に下肢挙上は本当にいいのか?と問いかけましたが、以下の場合は注意が必要です。

 

下肢の血流が悪い

透析患者様は年に数回「血管年齢」の検査をしていますが、その検査では動脈硬化の程度を調べています。足の血管に細いところや詰まっているところがあると足の血流が低下します。

足の血流が不足すると冷えやしびれ、痛みの出現。傷が出来てしまった場合になかなか治らずに壊死していまい切断しなくてはならないなんて事もあります。

 

では、足の血流が悪い場合に下肢を挙上するとどうなるか考えてみましょう。

下肢を挙上すると血圧が上昇する理由として「重力によって下肢の静脈血が心臓に戻り心拍出量があがるため」とお伝えしましたね。

一時的な対応ならともかく、血圧が一度下がったからといって透析中ずっと足を挙げっぱなしにしておくと足の血流が更に低下します。(そもそも足の血流が悪い方は、下肢挙上よる血圧上昇はあまり期待できません)

下肢挙上後に平らに戻しても下肢への血流が戻るのに時間がかかるという報告もあります。

そのため下肢の血流が悪い方には下肢挙上は推奨されていません。

 

② 心臓の機能が低下している

続いては、心臓から血液を送り出す力が弱っている場合です。

心臓はポンプ機能により左心室から血液を全身に送り出していますが、そのポンプ機能が弱っている状態の心臓に戻ってくる血液量が増えると負担がかかります。

 

場合によっては息が苦しくなったり、心不全を助長しかねません。

 

透析間の体重増加が多く、ドライウェイトからたくさん残している場合も注意が必要です。時間あたりの除水量が多い→血圧が下がる→下肢を挙上する→心臓へ負担がかかる(ただでさえ水が溜まっているのにさらに下肢からの血流を心臓に送ることにより)という悪循環が生じます。

 

そのため心臓の機能が低下している方やドライウェイトからたくさん残っている方にも下肢の挙上は推奨されません。

 

血圧低下を起こさないために

・ドライウェイトは適正か

・透析日の朝に降圧薬を内服していないか

・除水速度が速すぎないか

・便秘はしていないか

・いつもと服装が異ならないか

・体調は悪くないか

・透析条件は適正か

・低血糖になっていないか

・室温や透析液の温度が高すぎないか

・貧血や低栄養状態はないか

・器械や回路の接続にトラブルはないか

・心臓の機能は問題ないか

 

など、我々スタッフは様々な観点で血圧低下の予防に努めております。

 

また、患者様に気をつけていただきたいこともあります。

 

・水分(塩分)の摂取量に注意して、緩やかな除水になるように心がけましょう。

・便秘をしているときはドライウェイトまで除水すると血圧低下につながるのでスタッフに申し出てください。

・衣類や履物がいつもと違う場合もお伝えください。

・体調がいつもと違う場合にいつもどおり除水してしまうと血圧が下がるときがありますので体調に合わせて除水を行いましょう。

 

これらのことに注意していても血圧が低い場合には血圧を上げる薬剤などを使用すること

もあります。

 

血圧低下は頻度の多い合併症です。細心の注意を払って透析中の患者様の状態の観察や条

件の検討などをしておりますが、「血圧が下がっている気がする」、「気分が悪い」などの症

状があれば我慢せずにスタッフにお申し出ください。

 

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